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パソコンとともに生きてきた【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第20回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第20回


森羅万象をよく観察し、深く思考する。新しい気づきを得たとき、日々の生活はより面白くなる――。森博嗣先生の新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」。人生を豊かにする思考のツール&メソッドがここにあります。 ✴︎BEST TIMES連載(2022.4〜2023.9)森博嗣『静かに生きて考える』が書籍化(未公開原稿含む)。絶賛発売中!


 

 

第20回 パソコンとともに生きてきた

 

【ずっとコンピュータを使う仕事だった】

 

 先日、4年振りにMacを購入し、今それを使ってこの文章を書いている。注文してから1週間後に航空便と宅配便で届いたMacBook Airである。Airというのは、特に薄いノート型のMacの名称で、このAirが発売になって以後、僕が購入したパソコンは、すべてAir。たぶん、7台めくらいだと思う。

 僕は、大学に勤めていたとき、研究室で使うパソコンとして、AppleのMacを毎年10台くらい買っていた。累計で100台ほどは買ったはず。それ以前は、NECの9800シリーズを買っていた。プライベートでも同じで、NECとApple以外のパソコンを買ったことはない。OSがWindowsになるまえに、Macに乗り換えた。

 研究では数値解析を専門としていたので、最初は電子計算機センタへ出向いて、大型コンピュータを使っていた。言語はもちろんFORTRAN。僕の世代は、学部のときはカード入力だったけれど、大学院になったらTSS(タイムシェアシステム)が普及して、センタ内の一室に並んだ端末を使い、モニタとキーボードでプログラムを書いた。大学の電子計算機センタは4階建てのビルで、どこにコンピュータの本体があるのか見たことがない。ただ、端末室、カードのパンチ室、プリンタがある出力室、プロッタがある図形出力室などが各フロアに分かれていたから、いつも階段を上り下りしていた。

 助手として近隣の大学へ就職した頃には、パソコンが市販されるようになり、計算機センタへも、研究室のパソコンからログインできるようになった。つまり、パソコンが端末になった。電話回線を使えば、自宅のパソコンからもログインできたけれど、電話代がもったいないし、接続するための機器を自前で買う気にはなれないので、夜も大学に残って仕事をしていた。

 その後、パソコンは急速に性能アップし、研究で行う計算もなんとかできるレベルになった。計算時間は計算機センタの100倍以上かかったけれど、使用料は無料だ。研究費は限られているから、計算機使用料を払うよりも、パソコンを買って、何日も昼夜ぶっ通しで計算させた方が安くすむ。なにしろ、計算してもバグやミスがあったりして90%以上は失敗に終わるし、たとえ成功しても、すぐにプログラムを改良し、また新たな挑戦をする、という繰返しだったから、いくらでも計算する課題が存在した。

 解析プログラムも、出力プログラムも、すべて自分で作った。自宅では、ゲームのプログラミングもした。市販のソフトなどなかったからだ。

次のページパソコンの進化はなによりも凄かった

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✴︎森博嗣 新刊『静かに生きて考える』発売忽ち重版!✴︎

 

 

森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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